ACCAの財務会計科目であるFinancial Accounting(FA)、Financial Reporting(FR)、Strategic Business Reporting(SBR)を中心に必要となる、IFRSの基礎知識についてお伝えします。
ACCAの科目試験に最低限押さえておきたいポイントを中心に解説していきます。学習の前提については、IFRSポイント講座 第0回「IFRS講座の前提」をご覧ください。
今回は、「減損」についてお伝えします。
第9回で学ぶ基準
IAS第36号「減損(Impairments)」
減損とは
減損とは、収益性が低下し投資金額の回収が見込めなくなった資産を、回収可能な金額まで価値を減少させることです。
減損の会計処理は、主に以下の流れで行います。
- 減損の兆候(Impairment indicators)の把握
- 減損の判定(Impairment review)
- 減損損失の記録
減損の兆候
減損の兆候とは、資産又は資産グループに減損が生じている可能性を示す現象のことで、資産の減損を検討するべきかどうかを判断する基準になります。
減損の兆候は、大きく外部要因と内部要因に分けられます。
外部要因
- 通常の使用や時間の経過による市場価値の減少以上の大幅な減少
- その資産にとって不利となる技術的、経済的、法的環境の大幅な変化
内部要因
- 陳腐化又は物理的破損
- 資産の使用方法の大幅な変更
- 資産の収益性が予想より悪いという証拠
- 資産からの営業損失又はキャッシュのアウトフローがインフローを上回っている状況
- 資産の使用に重要な影響を保つ従業員の退職
資産の使用方法の大幅な変更とは、例えば資産の早期除却や、事業再生などによる機械稼働状況の変更や、これまで小売店と使用していた建物をレストランで使用するなどの大幅な変更などがあります。資産の稼働状況の変更により、その資産から生み出されるキャッシュフローに変更が生じたり、レストランなど建物へのダメージが従前の使用より大きくなるため、減損の兆候となります。
また、資産の使用に重要な影響を保つ従業員の退職とは、その資産を使用するために必要な免許や特別な技術・知識を持った従業員がいなくなり、その資産を使用することができなくなった場合、その資産からはキャッシュフローを生み出すことができなくなるため、減損の兆候となります。
減損の判定
減損の兆候から、資産が減損していると予想される場合は、資産が実際に減損しているか判定をする必要があります。
減損の判定は、資産の帳簿価額と回収可能価額を比較し、もし帳簿価額が回収可能価額を上回っている場合、資産は減損しており、資産の帳簿価額を回収可能価額まで引き下げる必要があります。
回収可能価額とは、使用価値(Value in use)と正味売却価額(Fair value less cost to sell)のいずれか高い金額です。
使用価値
使用価値とは、その資産から生み出される将来のキャッシュフローの現在価値になります。
ACCAの試験では、最初から使用価値の金額が示されているか、割引計算のための係数が示されているため、難しい計算問題は出題されません。
使用価値の英語(Value in use)は、略してVIUと表記されることも多いです。
正味売却価額
正味売却価額とは、その資産を現時点で売却した際に受け取れる金額から、売却に必要なコストを控除した金額になります。
正味売却価額の英語(Fair value less cost to sell)は、略してFVLCTSと表記されることも多くです。
減損損失の記録
減損の判定の結果、資産の帳簿価額が回収可能価額を上回っている場合、資産の帳簿価額を回収可能価額まで引き下げる必要があります。
この時、個別の資産か資金生成単位(Cash generating unit)かで、処理が異なります。
日本基準では、減損損失は資産の収益性の低下によって発生する臨時的な性質であるため、原則として特別損失に計上しなければならないとされているからです。
一方IFRSでは、特別損益の表示が禁止されているため、減損損失は通常の営業損益に表示されます。これは、減損損失のような臨時的な性質のものであっても、経営判断の結果であり、営業損益に反映させるべきという考えがあるからです。
個別の資産
減損した資産が個別のものである場合、資産の帳簿価額を回収可能価額まで引き下げ、差額は当期の減損損失として認識されます。
ただし、その資産の測定に再評価モデル(Revaluation model)を適用しており、以前に再評価剰余金(Revaluation surplus)などを認識している場合、まず再評価剰余金を減額し、再評価剰余金を超える部分は、当期の損失として認識します。
資金生成単位
資金生成単位(Cash generating unit)とは、他の資産または資産グループからのキャッシュインフローとは独立したキャッシュインフローを生成させるものとして識別される、資産グループの最小単位です。企業の工場や、子会社などが資金生成単位の例となります。
その資金生成単位として減損していると判定された場合、以下の順序で減損損失を配分します。
- 特定の資産
- のれん
- 残りの資産(比例按分)
資金生成単位における減損損失の例
B社は、A社の100%子会社であり、以下の資産を保有しています。
$’000 | |
のれん | 2,400 |
建物 | 6,000 |
機械装置 | 5,200 |
無形資産 | 2,000 |
現金及び債券 | 1,400 |
合計 | 17,000 |
ある日B社の工場で火災が発生し、減損の判定が実施され、回収可能価額が9,800と測定されました。火災により1,200分の機械装置が破損し、無形資産は1,500で外部に売却することができます。また、現金及び債券は実現価額となり、減額の必要はありません。
この時、減損損失の総額は17,000ー9,800で7,200になります。この減損損失は、まず火災により損害を受けた特定の資産である機械装置にの1,200に配分されます。
次に、残りの6,000のうち2,400がのれんに配分されます。
残りの資産のうち、無形資産は1,500で売却することができるので、1,500まで引き下げるため500の減損損失が配分されます。
残った減損損失3,100を残りの資産で比例按分することになりますが、この時点で建物しか残っていないため、建物に3,100全額を配分します。
減損損失の配分を表で表すと、以下の通りになります。
$’000 | $’000 | $’000 | |
のれん | 2,400 | -2,400 | 0 |
建物 | 6,000 | -3,100 | 2,900 |
機械装置 | 5,200 | -1,200 | 4,000 |
無形資産 | 2,000 | -500 | 1,500 |
現金及び債券 | 1,400 | 0 | 1,400 |
合計 | 17,000 | -7,200 | 9,800 |
単語帳
減損 | Impairments |
減損損失 | Impairment loss |
減損の兆候 | Impairment indicators |
外部要因 | External sources |
通常の使用 | Normal use |
時間の経過 | Passage of time |
内部要因 | Internal sources |
陳腐化 | Obsolescence |
物理的破損 | Physical damage |
経済的実績 | Economic performance |
減損の判定 | Impairment review |
帳簿価額 | Carrying value |
回収可能価額 | Recoverable amount |
使用価値 | Value in use VIU |
正味売却価額 | Fair value less cost to sell FVLCTS |
現在価値 | Present value |
資金生成単位 | Cash generating unit CGU |
特別損失 | Extraordinary loss |
個別の資産 | Individual asset |
再評価モデル | Revaluation model |
再評価剰余金 | Revaluation surplus |
比例按分 | Pro-rata |
実現価額 | Realisable value |
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