ACCAの財務会計科目であるFinancial Accounting(FA)、Financial Reporting(FR)、Strategic Business Reporting(SBR)を中心に必要となる、IFRSの基礎知識についてお伝えします。
ACCAの科目試験に最低限押さえておきたいポイントを中心に解説していきます。学習の前提については、IFRSポイント講座 第0回「IFRS講座の前提」をご覧ください。
今回は、「IASB概念フレームワーク」についてお伝えします。
IASB概念フレームワーク
IASB概念フレームワーク(IASB Conceptual framework)とは、IFRSに準拠した財務諸表を作成するための根源的なルールであり、慣習であり、定義になります。概念フレームワークは、下記の役割を担っています。
- 会計基準が、概念フレームワークの範囲内で発展する
- 会計基準が存在しない領域での指針となる
- 既存の会計基準改訂の指針となる
- 財務諸表が使用者にとって有益な情報を含んでいることを保証する
- 独創的な会計処理を防止する
IFRSと日本会計基準や米国会計基準との最大の違いは、会計基準に対するアプローチです。IFRSでは原則主義(Principle based)を採用しており、会計処理の根拠としての原理や原則を重視する考え方で、細部は企業の実態などに照らして決定してきます。
原則主義では、 会計処理において企業が判断しなければならない場面が増えますが、原則から外れる例外処理は認められません。
一方、日本会計基準や米国会計基準は細則主義(Rule based)を採用しており、あらゆる細かい会計処理のルールをあらかじめ決めておき、決定されたルールに従うことを重視する考え方です。
財務報告の目的
財務報告の目的(Objective of financial reporting)は、既存の及び潜在的な投資家、(銀行等の)貸し主、その他債権者が、企業に(資金等の)資源を提供するための意思決定をするにあたり有用な情報を提供することです。
財務諸表使用者の意思決定とは、以下のものを含みます。
- 投資に関する意思決定
- 資金提供に関する意思決定
- 経営陣の行動に対する投票または影響
財務諸表使用者は、経営陣の受託責任(Stewardship)を評価するとともに、企業の将来性について評価するために、以下の情報が必要になります。
- 企業の経済的資源(Economic resources)及び請求(Claims)(=財政状態計算書)
- 企業の経済的資源及び請求の変化(=株主資本等変動計算書)
- 経営の効率性・有効性(=包括利益計算書)
なお受託責任(Stewardship)とは、他人から預かった資産を、責任をもって管理運用することです。通常企業は、所有と経営の分離(Separation of ownership and management)の原則に伴い、企業所有者(出資者、株主)と経営者(取締役、執行役)が分離しています。
経営者は企業の所有者ではありませんので、所有者から預かっている資産(=企業)を運用して利益を上げていくため、受託責任が発生します。
財務諸表の質的特性
財務諸表の質的特性(Qualitative characteristics)は大きく2種類あり、1つは基本的質的特性(Fundamental qualitative characteristics)、もう1つが補強的質的特性(Enhancing qualitative characteristics)になります。
基本的質的特性
目的適合性(Relevance)
利用者の意思決定に違いを生じさせる情報(性質及び重要性)
重要性とは、ある情報が脱落、誤表示されることで、利用者の意思決定に影響を与える程度になります。例えば、財務諸表上で1円の売上が計上されていなかったとしても誰も気にしませんが、1億円の売上が計上されていなければ、結果は変わってきます。その情報が重要かどうかは、個々の企業や状況に応じて判断されます。
忠実な表現(Faithful representation)
財務諸表は、表現するものの実態を忠実に表現しなければならず、そのために完全(Complete)であり、中立(Neutral)であり、誤りがない(Free from error)状態でなければなりません。
- 完全性(Complete):描写や説明により理解を促すこと
- 中立性(Neutral):偏見や先入観がなく、それにより慎重さ(Prudence)を発揮すること
- 誤りがない(Free from error):記述や作成過程に誤りがないこと
また、測定の不確実性(Measurement uncertainty)は、忠実な表現のレベルに影響を及ぼします。
補強的質的特性
比較可能性(Comparability)
企業間の比較や前年比較などの項目間の類似点と相違点を識別できることをいいます。
検証可能性(Verifiability)
財務情報が経済的事象を表現していることを保証することをいいます。
Timeliness(適時性)
事象の発生から報告までの時間が長くなるほど、情報の有用性が低くなることをいいます。
理解可能性(Understandability)
利用者が企業のビジネスや活動について合理的な知識があることを前提に、情報が分類され、明瞭、簡潔に表示されていることをいいます。
コスト制約
コスト制約(Cost constraint)とは、質的特性ではありませんが、財務諸表を作成するにあたり重要な考え方になります。
ここでいうコストとは、有用な財務諸表を作成するためにかける時間や人といった労力のことをいいます。
コスト制約とは、報告される財務情報は、その情報を入手する恩恵が、その情報を入手するコストを上回っている限り、有用とされることをいいます。
例えば、100人体制で10億円の費用をかけて、一円単位まであっている完全な財務諸表を1年かけて作成したとしても、その財務諸表の有用性は限りなく低いということになります。
財務諸表と報告企業
報告企業(Reporting entity)
報告企業とは財務諸表を作成しなければならない企業のことであり、必ずしも法人というわけではありません。報告企業は、企業グループ(連結財務諸表)、非営利団体、非政府組織、個人であることもあります。
財務諸表(Financial statements)
財務諸表とは、企業の資産(Assets)、負債(Liabilities)、収益(Income)、費用(Expenses)を報告するためのものであり、次の種類があります。
- 連結財務諸表(Consolidated financial statements)
- 個別財務諸表(Un-consolidated financial statements)
- 合算財務諸表(Combined financial statements)
このうち、合算財務諸表が試験で問われることはほとんどありません。
また財務諸表作成の前提として、継続企業の前提(Going concern)というものがあります。これは、企業が将来にわたり継続的に事業活動を行うということを前提としています。
企業は日々さまざまなリスクにさらされており、財務諸表作成に当たって継続企業の前提に重要な疑問が生じる状況がある場合は、その旨を公開しなければなりません。
例えば、企業の生産能力の根幹の機械装置と在庫が全て保管されている工場倉庫が火災により全焼した場合、その企業は事業を継続できるかどうかを判断しなければなりません。
財務諸表の要素
財務諸表の要素(Elements of financial statements)は以下の通りになります。この各要素の定義は、英語でも覚えるようにしましょう。
なお、2018年3月に改訂IASB概念フレームワークが発行され、各要素の定義が修正されているので、オンライン等で調べる際は注意が必要です。
資産(Assets)
資産とは、過去の事象の結果として企業が支配する現在の経済的資源をいう。経済的資源とは、経済的便益を生み出す可能性のある、企業が有する権利である。
A present economic resource controlled by the entity as a result of past events. An economic resource is a right that has the potential to produce economic benefits.
負債(Liabilities)
負債とは、過去の事象の結果として発生した経済的資源を移転させる現在の債務をいう。債務とは、企業が回避する能力を有しない義務又は責任である。
A present obligation of the entity to transfer an economic resource as a result of past events. An obligation is a duty or responsibility that the entity has no practical ability to avoid.
持分(Equity)
持分とは、企業の資産から全ての負債を控除した残余持分である。
The residual interest in the assets of the entity after deducting all its liabilities.
収益( Income)
収益とは、持分請求権保有者からの出資に関するものを除く、持分の増加を生じさせる資産の増加又は負債の減少である。
Increases in assets, or decreases in liabilities, that result in increases in equity, other than those relating to contributions from holders of equity claims.
費用(Expense)
費用とは、持分請求権保有者への分配に関するものを除く、持分の減少を生じさせる資産の減少又は負債の増加である。
Decreases in assets, or increases in liabilities, that result in decreases in equity, other than those relating to distributions to holders of equity claims.
認識と認識の中止
認識(Recognition)と認識の中止(Derecognition)についても、可能であれば英語で覚えるようにしましょう。
認識(Recognition)
ある項目を財務諸表に含めるためのプロセスであり、その認識が目的に適合しており、忠実に表現できる結果になる限り適切である。
The process of including an item in the financial statements and is appropriate if it results in relevant and faithful representation
認識の中止(Derecognition)
資産及び負債の全部又は一部を財務諸表から除くことである。
The removal of all or part of an asset (loss of control) or liability (no obligation)
測定
測定(Measurement)については以下のものがありますが、ここでは、両者の違いを押さえておく程度で問題ありません。
取得原価(Historical cost) | 現在価値(Current value) |
取引発生時の価額 | 測定日における状況を反映した最新価額 ・公正価値(Fair value) ・使用価値(資産)(Value in use) ・履行価値(負債)(Fulfilment value) ・現在原価(Current cost) |
表示と開示
損益計算書は、企業の業績を示す主要な情報源となり、収益と費用を含むみます。もし収益及び費用が現在価値(Current value)の変化により生じる場合は、その他包括利益を通じて認識されます。
その他包括利益から損益への振り替えは、それが目的に適合する情報を提供する限り許容されます。
単語帳
IASB概念フレームワーク | IASB Conceptual Framework |
会計基準 | Accounting standards Standards |
原則主義 | Principle based |
細則主義 | Rule based |
指針 | Guidance |
財務諸表が使用者 | User of the financial statements |
投資家 | Investors |
(銀行等の)貸し主 | Lenders |
債権者 | Creditors |
意思決定 | Decision making |
受託責任 | Stewardship |
経済的資源 | Economic resources |
請求 | Claims |
所有と経営の分離 | Separation of ownership and management |
財務諸表の質的特性 | Qualitative characteristics |
基本的質的特性 | Fundamental qualitative characteristics |
目的適合性 | Relevance |
性質 | Nature |
重要性 | Materiality |
忠実な表現 | Faithful representation |
完全性 | Completeness |
忠実性 | Neutral |
慎重さ | Prudence |
謝りがない | Free from error |
測定の不確実性 | Measurement uncertainty |
補強的質的特性 | Enhancing qualitative characteristics |
比較可能性 | Comparability |
検証可能性 | Verifiability |
適時性 | Timeliness |
理解可能性 | Understandability |
コスト制約 | Cost constraint |
報告企業 | Reporting entity |
連結財務諸表 | Consolidated financial statements |
個別財務諸表 | Un-consolidated financial statements |
合算財務諸表 | Combined financial statements |
継続企業の前提 | Going concern |
経済的資源 | Economic resources |
経済的便益 | Economic benefits |
残余持分 | residual interest |
認識 | Recognition |
認識の中止 | Derecognition |
測定 | Measurement |
取得価格 | Historical cost |
現在価値 | Current value |
公正価値 | Fair value |
使用価値 | Value in use |
履行価値 | Fulfilment value |
現在原価 | Current cost |
表示 | Presentation |
開示 | Disclosure |
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