MAの試験範囲や配点など、シラバスの概要については、以下の記事でも説明しています。ここでは試験範囲の内容を、ACCA公式のスタディガイドを用いて詳しく説明します。シラバスはこちらからダウンロードができます。
MAは、組織のパフォーマンス評価のための原価計算や投資評価など、外部報告用の会計ではなく、組織内部にフォーカスした内容になります。
MAの試験範囲とスタディガイド
MAの概要では、ACCA発行のシラバスに記載されている試験範囲を、英語でそのまま載せています。ここでは日本語の対訳を含めて記載します。
またシラバスでは、各パートのスタディガイドを発行していて、各パートの項目ごとに、細かく押さえておく必要があるポイントを説明しています。全てを列挙すると長くなるので、ある程度まとめて記載しています。
A. マネジメント情報の性質、情報源及び目的
(The nature, source and purpose of management information)
パートAでは、一般的な内容となっており、管理会計の目的と財務会計の違いを押さえておきましょう。特に変動費や固定費などの原価の種類や分類は非常に重要なポイントになります。
- マネジメントのための会計
(Accounting for management)- 原価会計及び管理会計の目的、役割及び比較
- プランニング、意思決定及び統制における管理プロセス
- 戦略的(Strategic)プランニング、戦術的(Tactical)プランニング、運用的(Operational)プランニングの違い
- データ(Data)と情報(Information)の違い
- 良質な情報
- 意思決定のためのマネジメント情報の限界
- データの情報源
(Sources of data)- 組織内外の情報源(政府統計、報道、専門家団体、価格リストなど)
- インターネット等の公開情報の使用と限界
- 原価・収益に及ぼす全般的な経済環境の影響
- ビッグデータと分析
- 原価の分類
(Cost classification)- 製造原価及び非製造原価
- 管理費、販売費、分配費、利息等の非製造コスト
- 原材料費、労務費、製造間接費等の製造コスト
- 製品製造における製造原価及び非製造原価の区分の重要性
- 製品・サービスの原価分析における機能別費用、直接費・間接費、変動費・固定費、段階固定費・準変動費の分類
- 取引のカテゴリー分類に使用するバーコード等の用法
- 原価対象、原価単位及びコストセンターの概要
- コストセンター、プロフィットセンター、投資センター及び収益センターの違いと書くセンター長の要求する情報
- 情報の開示
(Presenting information)- 目的に応じたフォーマットによるマネジメント情報の報告作成
- 表、チャート、グラフを使用した情報作成
- マネジメント情報に使用される表やグラフなどの解釈
B. データ分析と統計手法
(Data analysis and statistical techniques)
パートBの内容としては、統計学に関する事項が多く、計算やグラフの作成が求められますが、高度な内容は出題されませんので、各用語の意味や何を計算しているかを理解できれば、あまり難解な内容ではありません。
サンプリングについては、今後Audit and Assurance(AA)やAdvanced Audit and Assurance(AAA)にも登場してくる内容ですが、ここでは各サンプリングを用いる状況などを理解しておきましょう。
- サンプリング方法
(Sampling methods)- サンプリング手法(ランダム、体系、階層、多段、集落、系統)
- 特定の状況におけるサンプリング手法の選択(サンプリング結果は試験範囲外)
- 予測方法
(Forecasting techniques)- 一次関数や方程式
- 準変動費と段階固定費や変動費の単位費など、原価全体から固定費と変動費を分離するためのハイ・ロー分析
- 変動費・固定費を予測するためのハイ・ロー分析の利点と欠点
- 散布図の作成とグラフ挿入
- 原価データの分析
- 相関係数と決定係数の概要、計算及び読解
- 線形回帰分析と結果の分析
- 原価・収益予測のための線形回帰分析
- 過去の価格変動と将来予測
- 線形回帰分析の利点と欠点
- 時間経過分析(循環、トレンド、季節変動、ランダム)の概要、利点及び欠点
- 移動平均の計算
- 回帰分析を用いたトレンドの計算
- 予測予算作成のための季節トレンドの使用
- 各種指数の目的と単純な指数の計算
- 製品ライフサイクルと予測における重要性
- データの要約と分析
(Summarising and analysing data)- グループ化されたデータやされていないデータの平均値(mean)、最頻値(mode)、中央値(median)の計算
- 差異、標準偏差や変動係数などグループ化されたデータやされていないデータのばらつきの計算
- 意思決定のための期待値の計算
- 正規分布のプロパティ、グラフ及び表の読解
- スプレッドシート
(Spreadsheets)- スプレッドシートの目的と特徴
- スプレッドシートのデータ分析、原価計算や管理会計への応用
C. 原価計算
(Cost accounting techniques)
パートCの原価計算に関する事項は、試験対策という意味だけでなく実務上も重要な項目になります。各原価計算方法の特徴や違いを簡単に説明できるようにしっかりと理解をしておく必要があります。
また、外部報告に使用される原価計算(全部原価計算)と経営判断に使用される原価計算の違いを把握し、全部原価計算とその他の原価計算を変換する問題も出題されます。
- 原材料費、労務費及び間接費
(Accounting for material, labour and overheads)- 原材料費
- 発注、受領、在庫からの振替の手続きと必要書類の違い
- 実物在庫と帳簿在庫のモニタリング要領
- 実物在庫と帳簿在庫の差異及び紛失の最小化
- 原材料の記帳と残高
- 発注コストと保有コストの計算
- 最適発注量の計算と読解(通常次と割引時)
- 在庫コスト最小化のための製造計算
- 需要とリード時間が一定の場合の発注量レベルの確立方法
- LIFO、FIFO及び平均法による期末在庫の計算
- 労務費
- 直接労務費及び間接労務費の計算
- 労務費と製造の関連付け及び帳簿への記録
- 報酬支払い方法(時間払い、出来高払い及び個人・グループインセンティブ)
- 離職率の計算及びコスト、原因分析
- 労働効率比(Labour efficiency ratio)、労働容量比(Labour capacity ratio)及び製造量比(Production volume ratio)の計算
- 製造間接費
- 直接費、間接費の違い
- 全部原価率の決定
- 間接費のコストセンターへの配賦
- 相互配賦方によるサービスコストセンターから製造コストセンターへの再配賦
- 製造間接費の記帳
- 過剰配賦及び過少配賦の計算
- 原材料費
- 全部原価計算及び限界原価計算
(Absorption and marginal costing)- 原価計算における貢献(Contribution)の概要の重要性と応用
- 在庫評価と利益確定のための全部原価計算及び限界原価計算
- 全部原価計算及び限界原価計算による各損益の計算と差異分析
- 全部原価計算及び限界原価計算の利点及び欠点
- 原価計算会計
(Cost accounting methods)- 個別原価計算及びバッチ原価計算
- 特徴、適用する状況及び会計記録作成
- 与えられた情報による個別原価計算及びバッチ原価計算の確立
- 総合原価計算
- 特徴及び適用する状況
- 正常現存、異常現存及び異常利得の会計処理
- 製造品の単位原価の計算
- 完成品換算量の概要と計算
- 移動平均及びFIFOを使用した原価の仕掛品と製品への配賦
- プロセスの各段階で発生した損益の会計処理
- 副産物(By-product)及び連産品(Joint product)の違い
- 分岐点における副産物及び連産品の評価及び会計処理(仕掛品及び減損が関わる状況は試験範囲外)
- サービス原価計算
- 適用する状況
- 異なるサービスの状況による単価測定
- サービス業界の原価分析
- 個別原価計算及びバッチ原価計算
- 代替的な原価計算会計
(Alternative cost accounting principles)- 活動基準原価計算(ABC:Activity based costing)、原価企画(Target costing)、ライフサイクルコスト(Life cycle costing)、総合的品質管理(TQM:Total quality management)
- 代替的な原価計算手法の違い(原価計算は試験範囲外)
D. 予算
(Budgeting)
パートDでは、予算に関する全般的内容が出題されますが、投資に関する事項、特に資本的支出と収益的支出の違い、NPV、IRR、投資回収期間法による投資評価と判断が重要なポイントとなります。
また、複利と割引の概念、貨幣の時間価値については、ACCAの試験全体を通して目にする論点ですので、ここで確実に理解しておきましょう。
- 予算の性質と目的
(Nature and purpose of budgeting)- 予算策定の理由と予算サイクル
- 予算策定プロセスの管理手法及び各ステージ
- 予算に関わるデータ源、予算案計画及び決定、予測との関係
- 予算作成
(Budget preparation)- 予算策定における主要要素
- 売上予算策定
- 機能別予算策定(製造、原材料、調達、労務費、変動・固定間接費)
- 現金収支予算策定
- マスター予算策定(損益計算書、財政状態計算書)
- What-if分析とシナリオ計画
- 変動予算
(Flexible budgets)- 統制における変動予算の重要性及び欠点
- 固定予算管理及び変動予算管理が適した状況
- 予算変更
- 資本的予算と割引キャッシュフロー
(Capital budgeting and discounted cash flow)- 資本投資計画の重要性
- 資本的支出と収益的支出の違い
- 資本的支出予算策定における考慮事項とステップ
- 単利・複利及び通常金利・実行金利の違い
- 複利と割引の考え方
- キャッシュフローと利益の区分及びキャッシュフローと資本投資の関係
- 単独の投資判断とキャッシュフローの関係
- 割引キャッシュフローの正味現在価値(NPV:Net Present Value)と内部収益率(IRR:Internal Rate of Return)
- Annuity及びPerpetuityを使用した現在価値の計算
- NPV、IRR及び回収期間の計算(割引、非割引)及び投資評価
- 予算管理と報告
(Budgetary control and reporting)- 変動予算、固定予算、実際売上、原価及び利益の簡単な差異計算
- 差異の排除策
- 責任会計の概要と重要性
- 管理可能原価及び管理不可能原価の概要
- 経営陣への報告
- 予算の行動的側面
(Behavioural aspects of budgeting)- パフォーマンスマネジメントにおけるモチベーションの重要性
- 予算計画と管理、目標がモチベーションに及ぼす影響
- インセンティブ制度
- 参加型予算策定の利点と欠点
- トップダウン予算及びボトムアップ予算
E. 標準原価計算
(Standard costing)
パートEの最も重要な論点は、標準原価計算の差異分析です。簿記2級の工業簿記と近い内容ですが、製造間接費の差異分析方法が若干異なります。ただし、意味するところは同じですので、しっかり理解するようにしましょう。
- 標準原価計算
(Standard costing system)- 標準原価計算の目的と原則
- 限界原価計算及び全部原価計算との違い
- 限界原価計算及び全部原価計算における標準単価
- 差異計算及び分析
(Variance calculations and analysis)- 価格差異及び数量差異
- 原材料の合計差異、価格差異及び消費量差異
- 労務費の合計差異、賃率差異及び能率差異
- 変動間接費の合計差異、支出差異及び能率差異
- 固定間接費の合計差異、支出差異、操業度差異、能率差異
- 差異分析に必要な要素と対応策
- 差異の相互関係
- 実際数値と標準数値の計算
- 予算及び実際利益の調整
(Reconciliation of budgeted and actual profit)- 標準全部原価計算での与実分析
- 標準限界原価計算での与実分析
F. パフォーマンスマネジメント
(Performance measurement)
パートFでは、組織のパフォーマンスマネジメントとして、ギアリングやROIといった指標が登場します。それぞれの指標の目的と、数値の意味を説明できるようにしましょう。
また、ギアリング(自己資本に対する借入比率)やCapital Employment(自己資本+有利子負債)といった聞き慣れない用語も登場しますが、ここで理解しておくことが大切です。
- パフォーマンスマネジメント – 概要
(Performance measurement – overview)- ミッション・ステイトメントの目的と役割
- 戦略目標、戦術目標及び運用目標の目的と役割
- 経済、マーケット状況及び政府による規制の影響
- パフォーマンスマネジメント – 応用
(Performance measurement – application)- 財務・非財務パフォーマンスの測定(収益性、流動性、ギアリングなど)
- バランススコアカード(BSC)の視点
- 利点と限界
- 財務目的、顧客満足、プロセス効率化及び成長のための業績評価指標
- 主要成功要因(CSF)及び重要業績評価指標(KPI)及び目標、ミッション・ステイトメントとの関係
- 特定の状況下でのCSFとKPIの設定
- 経済、効率及び有効性
- 経済、効率及び有効性の概要、業績評価指標及び特定の状況下での設定
- 効率比、有効比及び活動比の意味及び特定の状況下での計算
- 単価
- 契約別原価計算及び総合原価計算でのパフォーマンス測定
- 資源の活用
- サービス業、製造業でのパフォーマンス測定の確立と活用
- 収益性
- 投資収益率(ROI)及び残余利益の計算、利点及び限界
- サービス品質
- サービス業及び製造業でのパフォーマンス測定の問題
- サービス業に向けたパフォーマンス測定
- コスト削減と付加価値
(Cost reductions and value enhancement)- コスト管理とコスト削減
- コスト削減方法及び評価
- 価値分析の評価
- パフォーマンスのモニタリングと報告
(Monitoring performance and reporting)- 非財務パフォーマンス測定の重要性
- 短期パフォーマンス及び長期パフォーマンスの関係
- 非営利団体及び公共セクターにおけるパフォーマンス測定
- 経営パフォーマンス評価及び現実問題との関連
- マネジメント層の注目する情報及び改善案の報告
まとめ
Management Accounting(MA)は、Business and Technology(BT)、Financial Accounting(FA)と並び、ACCAの13科目のうち最も基本的な科目の一つです。
管理会計の基本である原価計算については、特によく理解しておく必要があります。外部報告用と経営判断用の原価計算の特徴や違い、調整などを理解しておく必要があります。
また、NPV、IRR、投資回収期間法などの投資評価手法や、現在価値、割引、貨幣の時間価値の概念については、ACCAの試験全体を通して目にする論点です。そのため、暗記するだけでなく、それぞれの概念や使用法などを説明できるようにしておきましょう。
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