FAの試験範囲や配点など、シラバスの概要については、以下の記事でも説明しています。ここでは試験範囲の内容を、ACCA公式のスタディガイドを用いて詳しく説明します。シラバスはこちらからダウンロードができます。
FAは、外部報告のための財務会計の基礎を網羅的に学習し、Knowledge Module3科目の中で最も会計のイメージに合う科目になります。簿記学習経験者には取り掛かりやすい科目となりますが、日本の会計基準と考え方が異なる項目や、連結会計などの概念的な項目も登場します。
コンテンツ
FAの試験範囲とスタディガイド
FAの概要では、ACCA発行のシラバスに記載されている試験範囲を、英語でそのまま載せています。ここでは日本語の対訳を含めて記載します。
またシラバスでは、各パートのスタディガイドを発行していて、各パートの項目ごとに、細かく押さえておく必要があるポイントを説明しています。全てを列挙すると長くなるので、ある程度まとめて記載しています。
A. 財務報告の背景と目的
(The context and purpose of financial reporting)
パートAでは、財務諸表の目的や構成要素の定義、作成者の義務と責任、利用者の種類とニーズなど、外部報告用会計の一般的な内容になります。管理会計(Management Accounting)との目的や利用者の違いを把握しておくことがポイントになります。
また、ビジネス組織の種類や各IFRS設定団体(IFRSF、IASB、IFRS AC、IFRIC)の役割についても頻出になるので、しっかりと覚えておきましょう。
- 外部報告用財務諸表の範囲と目的
(The scope and purpose of financial statements for external reporting)- 財務分析の定義(記録、分析、財務データ要約)
- ビジネス組織の種類及び違い、利点、欠点
- 個人事業主(Sole trader)
- パートナーシップ(Partnership)
- 株式会社(Limited liability company.)
- 財務報告の性質、原則及び範囲
- 利用者及びステークホルダーのニーズ
(Users’ and stakeholders’ needs)- 財務諸表の利用者とそれぞれのニーズ
- 財務諸表の主要素
(The main elements of financial reports)- 財務諸表の各要素の目的
- 資産(Asset)、負債(Liability)、資本(Equity)、収入(Revenue)及び費用(Expense)の定義
- 規制フレームワーク(法規制、理由と限界、会計基準との関係)
(The regulatory framework(legislation and regulation, reasons and limitations, relevance of accounting standards))- 国際会計基準の各設定団体の役割
- IFRS財団:IFRS Foundation(IFRSF)
- 国際会計基準審議会:International Accounting Standards Board(IASB)
- IFRS諮問会議:IFRS Advisory Council(IFRS AC)
- IFRS解釈指針委員会:IFRS Interpretations Committee(IFRIC)
- 国際会計基準の役割
- 国際会計基準の各設定団体の役割
- ガバナンスに責任を負う者の義務と責任
(Duties and responsibilities of those charged with governance)- 財務諸表作成におけるガバナンスの意味
- 財務諸表作成における取締役の義務と責任
B. 財務情報の質的特性
(The qualitative characteristics of financial information)
パートBは、財務諸表の質的特性がテーマです。IFRSは原則主義という立場をとっており、会計記録や財務諸表の作成は全てこの概念に従って行われます。質的特性はその意味まで暗記し、それぞれの概念もしっかり理解しましょう。
- 財務情報の質的特性
(The qualitative characteristics of financial information)- 質的特性の理解
- 目的適合性(Relevance)
- 表現の忠実性(Faithful representation)
- 比較可能性(Comparability)
- 検証可能性(Verifiability)
- 適時性(Timeliness)
- 理解可能性(Understandability)
- 会計における概念の理解
- 重要性(Materiality)
- 実質優先(Substance over form)
- 継続企業の前提(Going concern)
- 企業実態の公準(Business entity concept)
- 発生主義(Accruals)
- 慎重性(Prudence)
- 一貫性(Consistency)
- 質的特性の理解
C. 複式簿記と会計制度
(The use of double-entry and accounting systems)
パートCでは、基本的な複式簿記の原則等を学習します。簿記を学習したことがある方なら、内容は決して難しくはありませんが、クレジットノートやデビットノートなどの馴染みのないものも登場するので、文書発行のタイミングや流れを把握しておきましょう。
クレジットノートは売手が返金を約束する、デビットノートは、買手が返金を要求すると簡単に覚えておきましょう。
- 会計記録の保持や会計情報源など複式簿記の原則
(Double-entry book-keeping principles including the maintenance of accounting records and sources of accounting information)- 会計制度の主情報源の機能
- ビジネス文書の種類と役割
- 見積書(Quotation)
- 注文書(Sales order)
- 発注書(Purchase order)
- 商品受領書(Goods received note)
- 商品発送書(Goods despatched note)
- 請求書(Invoice)
- ステイトメント(Statement)
- クレジットノート(Credit note)
- デビットノート(Debit note)
- 送金通知書(Remittance advice)
- 領収書(Receipt)
- 複式簿記と貸借一致の原則
- 会計等式(Asset = Liability + Equity)
- 有用な情報の提供と法令遵守に対する会計制度の貢献
- 販売、購入、支払、受領などのビジネス取引の種類
- 勘定元帳、第一次記入帳簿及び仕分帳
(Ledger accounts, books of prime entry, and journals)- 元帳勘定及び第一次記入帳簿の主な種類、性質及び機能
- 仕分帳の使用と元帳への記帳
- 与えられた状況下での正しい記帳
- 元帳の残高と締め
D. 取引や事象の記録
(Recording transactions and events)
パートDでは、基本的な取引の会計処理を学習しますが、日本の会計基準とは異なる概念が登場します。固定資産の再評価モデル、棚卸資産の評価方法、引当金と偶発債務、偶発資産の取り扱いは特によく理解しておく必要があります。
また、有形固定資産の減価償却費はDepreciation、無形固定資産の減価償却費はAmortisationという英語が使用されていますが、意味合いは同じです。
- 売上と仕入
(Sales and purchases)- 売上と仕入の記帳
- 売上と仕入それぞれの返品の記帳
- 消費税(Sales tax)の一般的原則、計算及び記帳
- 売上と仕入それぞれの割引
- 現金
(Cash)- 現金取引の記帳
- 小口現金の必要性と記帳
- 棚卸資産
(Inventory)- 財務諸表作成のための棚卸資産の調整の必要性
- 棚卸資産の期首・期末残高の記帳
- 棚卸資産の評価方法とIASBの要求
- 棚卸資産に含まれる費用
- 先入先出法(FIFO)及び平均法(AVOC)(移動平均方及び総平均方)による期末棚卸資産評価
- 棚卸資産評価への会計における概念の適用
- 棚卸資産評価方法による利益及び資産への影響
- 有形固定資産
(Tangible non-current assets)- 固定資産の定義
- 流動資産と固定資産の違い
- 資本性支出と収益性支出の違いと分類
- 固定資産の取得及び除却の記帳
- 交換取引を含む、固定資産の除却による利得・損失の計算及び損益計算書への記帳
- 固定資産の再評価の包括利益計算書及び財政状態計算書への記帳
- 再評価した固定資産の除却による利得・損失の計算
- 固定資産の残高や増減の財務諸表上での表示
- 資産台帳の目的と機能
- 減価償却
(Depreciation)- 減価償却(Depreciation)の目的
- 定額法及び定率法での減価償却費の計算
- 異なる減価償却方法が適用される状況
- 減価償却費及び減価償却累計額の記帳
- 再評価された固定資産の減価償却費の計算及び再評価超過分の利益剰余金への振替
- 固定資産の耐用年数や残存価格の見積もりに変更があった際の減価償却費の調整
- 減価償却費の包括利益計算書及び財政状態計算書への記帳
- 無形固定資産及び減価償却
(Intangible non-current assets and amortisation)- 有形固定資産と無形固定資産の違い
- 無形固定資産の種類
- 研究費及び開発費の定義及びIFRSでの取り扱い
- 開発費の資産計上と費用処理の分離
- 減価償却(Amortisation)の目的
- 減価償却方法変更時の会計処理
- 未収収益・未払費用い及び前受収益・前払費用
(Accruals and prepayments)- 費用収益対応の原則の適用
- 元帳への記帳及び財務諸表作成における調整計算
- 収益及び純資産への影響
- 債権(売掛金)及び債務(買掛金)
(Receivables and payables)- 債権及び債務の例
- 顧客への与信枠(Credit facility)設定の費用対効果
- 債権の年齢分析の目的
- 与信限度の目的
- 回収不能債権の貸倒処理の記帳
- 回収不能債権の損益計算書及び財政状態計算書への影響
- 貸倒引当金の設定と調整の記帳
- 貸倒引当金の調整による損益計算書及び財政状態計算書上の貸倒引当金期末残高の表示
- 債権債務の反対勘定
- サプライヤー台帳の目的、作成及び調整
- 流動資産及び固定資産への分類
- 引当金及び偶発事象
(Provisions and contingencies)- 引当金(Provision)、偶発債務(Contingent liability)及び偶発資産(contingent asset)の定義及び分類、会計処理、
- 引当金の計算及び振替
- 年次決算書上の報告
- 資本構成及び金融費用
(Capital structure and finance costs)- 株式会社の資本構成
- 普通株
- 優先株(償還可能優先株、償還不可能優先株)
- 借入金
- 株式資本及び資本剰余金の記帳
- 財政状態計算書に表示される引当金(Reserve)の記帳
- 無償新株発行(Bonus issue)の定義と利点及び欠点
- 株主割当発行(Rights issue)の定義と利点及び欠点
- 無償新株発行の財政状態計算書への影響
- 株主割当発行の財政状態計算書への影響
- 配当の記帳
- 金融費用の記帳
- 株主資本等変動計算書の構成要素
- 株式会社の資本構成
E. 試算表作成
(Preparing a trial balance)
パートEでは、パートDでの各取引の結果である試算表を学習します。誤謬の修正は、誤謬発生の元となる取引のをしっかり理解しておけば、決して難しい内容ではありません。
総括勘定(Control account)や未決算勘定(Suspense account)は、簿記学習者や経理担当者でもあまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、
- 試算表
(Trial balance)- 試算表の目的
- 元帳残高抜粋の試算表への転記
- 試算表期首残高の抜粋
- 試算表の限界
- 誤謬(Error)の修正
(Correction of errors)- 記帳において発生する誤謬の種類
- 試算表での誤謬の発生
- 誤謬修正の記帳
- 誤謬の計算と包括利益計算書及び財政状態計算書への影響
- 総括勘定と差異調整
(Control accounts and reconciliations)- 売掛金及び買掛金の統括勘定の目的
- 統括勘定と複式簿記の関係
- 売掛金及び買掛金の統括勘定調整
- 統括勘定調整に関連した誤謬及び修正
- 銀行残高調整
(Bank reconciliations)- 銀行残高調整の目的
- 現金の帳簿残高と銀行残高の差異原因
- 記帳漏れや誤謬の修正
- 銀行残高調整の作成
- 年次決算書で報告すべき残高
- 未決算勘定
(Suspense accounts)- 未決算勘定の目的
- 未決算勘定の作成の原因となる誤謬
- 未決算勘定の記帳
- 未決算勘定の解消となる記帳
F. 基本的な財務諸表の作成
(Preparing basic financial statements)
パートFでは、パートDでの取引の記録、パートEでの試算表作成を経て、財務諸表を作成します。FAでは財政状態計算書、包括利益計算書及び簡単なキャッシュフロー計算書及び注記が範囲となっています。
また、IFRS(ACCA試験)での財務諸表の英語表記は耳慣れないかもしれませんが、ここで覚えておきましょう。
- 財政状態計算書(SFP:Statements of financial position)
- 包括利益計算書(SPLOCI:Statements of profit or loss and other comprehensive income)
- キャッシュフロー計算書(SCF:Statements of cash flows)
- 株主資本等変動計算書(SOCE:Statement of Changes in Equity)
- 財務諸表注記(Notes to the financial statements)
- 財政状態計算書
(Statements of financial position)- パートD及びパートE各項及び企業実態の公準と財政状態計算書の関係
- 引当金(Reserve)の性質及び報告
- パートD及びパートE各項の情報を元にした(抜粋)財政状態計算書の作成
- 財政状態計算書上の利益剰余金の見出し
- 包括利益計算書
(Statements of profit or loss and other comprehensive income)- パートD及びパートE各項の情報を元にした(抜粋)包括利益計算書の計算
- 収益及び費用に適用される会計の概念
- 売上、売上原価、売上総利益、純利益、包括利益の計算
- 損益計算書に開示される情報
- 損益計算書上の法人税及び下年度からの繰越
- 財政状態計算書及び包括利益計算書の関係
- 損益計算書において別段表記が必要な事項
- 注記の開示
(Disclosure notes)- 注記の目的
- 注記ドラフトの作成
- 有形・無形固定資産
- 引当金
- 後発事象
- 棚卸資産
- 後発事象
(Events after the reporting period)- IFRSにおける後発事象の定義
- 要修正事象及び修正不要事象の分類
- 要修正事象及び修正不要事象も財務諸表上での表記
- キャッシュフロー計算書
(Statements of cash flows)- 利益とキャッシュフローの違い
- キャッシュフロー管理の必要性
- 財務諸表利用者におけるキャッシュフロー計算書の利点及び欠点
- 各取引のキャッシュフローへの影響の分類
- キャッシュフロー計算書に必要な数値の計算
- 営業活動におけるキャッシュフロー
- 投資活動におけるキャッシュフロー
- 財務活動におけるキャッシュフロー
- 営業活動におけるキャッシュフローの直接法及び間接法による計算
- 記録不備
(Incomplete records)- 記録不備の発見・修正の際に使用する手法
- 会計等式の利用
- 元帳を使用した不備金額の計算
- 現金・銀行残高要約
- 収益率を使用した不備金額の計算
- 記録不備の発見・修正の際に使用する手法
G. 簡単な連結財務諸表の作成
(Preparing simple consolidated financial statements)
パートGでは基本的な連結財務諸表の作成が論点となり、FAの中でも難しい項目になります。連結会計は、親子会社同士の取引の消去や利益剰余金の調整など特殊な処理が導入されます。
連結会計は、次の科目であるFRやSBRでも必ず出題されますので、個々の取引を暗記するだけではなく、なぜその処理を行うかという理由と記録の流れを理解しておくことが重要です。のれんの計算も頻出な論点ですので、確実に得点できるようにしましょう。
- 子会社
(Subsidiaries)- 連結会計における各項目の定義
- 親会社
- 子会社
- 支配
- 連結財務諸表
- 非支配持分
- 営業投資・単純投資
- グループ構成における子会社
- (抜粋)連結財政状態計算書及び各項目の作成
- 子会社取得時の土地及び建物の公正価値評価替え(減価償却費の調整は試験範囲外)
- 現金及び株式による取得対価の公正価値(繰延対価及び条件付対価は試験範囲外)
- グループ間取引の消去(未達現金及び未着品は試験範囲外)
- グループ間取引のにおける未実現利益の消去
- 子会社の期中取得
- のれんの計算(全部のれん方式のみ、のれんの減損は試験範囲外)
- 取引対価の公正価値
- +非支配持分の公正価値
- -取得時の純資産の公正価値
- =取得時ののれん
- (抜粋)連結損益計算書及び各項目の作成
- グループ間取引の消去(未達現金及び未着品は試験範囲外)
- グループ間取引のにおける未実現利益の消去
- 子会社の期中取得
- 連結会計における各項目の定義
- 関連会社
(Associates)- 関連会社及び重大な影響の定義と重大な影響が存在する状況
- 関連会社関係の主要な特徴及びグループ構成における関連会社
- 関連会社における持分法の原則
H. 財務諸表の解釈
(Interpretation of financial statements)
パートHでは、財務比率の計算がポイントになりますが、FRやSBRでは財務比率の計算結果から収益性や財政状態の分析を求められますが、FAではそこまで求められませんので、財務比率の種類と計算方法をしっかり暗記しておきましょう。
- 財務諸表分析の重要性と目的
(Importance and purpose of analysis of financial statements)- ビジネス環境における財務諸表の解釈と分析
- 財務比率の解釈
- 財務比率
(Ratios)- 主要な財務比率の計算
- 収益性
- 流動性
- 効率性
- 資本比率
- 各財務比率の関係
- 主要な財務比率の計算
- 財務諸表分析
(Analysis of financial statements)- 収益性、流動性、資源の有効活用及び財政状態に関わる財務諸表各要素の関係の計算及び解釈
- 財務諸表に含まれる情報からの結論付け及び財務諸表利用者への提示
まとめ
Financial Accounting(FA)は、Business and Technology(BT)、Management Accounting(MA)と並び、ACCAの13科目のうち最も基本的な科目の一つです。
FAでは、外部報告のための財務会計の基礎を学習します。売上や仕入など、各取引の記帳要領だけでなく、財務諸表の質的特性や会計における発生主義などの概念に関わる問題も頻出ですので、網羅的に学習することが重要です。
また、基本的な基本的な連結会計についても出題範囲となっているので、親子会社同士の取引の消去や利益剰余金の調整など特殊な処理を暗記するだけではなく、なぜその処理を行うかという理由と記録の流れを理解しておくことが重要です。
FAで学習する内容は、会計士として最も期待される知識の最も基礎的な部分になります。FA合格後はFR、SBRと続いていきますが、FAの内容は全ての科目で登場します。科目としては100点中50点で合格ですが、可能ならば100点を取る気持ちで学習しましょう。
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